さあ、始まりました「超!映画反省会」第2回!
今回の反省映画は『犬王』でございます。
『犬王』!と聞いてピンとくる人は、それほどいないでしょう。
「犬? ……里見八犬伝かな?( ゚Д゚)」とか思う人もいるかもしれません。
いやいや「犬王」とは、かの「観阿弥・世阿弥」の室町時代にいた、
忘れ去られた猿楽師・犬王のこと。
彼を「室町時代のポップスター」として描いたのが、アニメーション映画『犬王』。
「狂乱のミュージカルアニメーション」として
チャレンジングな新ジャンルに切り込んできました。
監督は『映像研には手を出すな』の湯浅正明。
キャラクターデザインは『ピンポン』などの漫画家・松本大洋。
犬王役にはロックバンド・女王蜂のボーカル・アヴちゃん。
琵琶法師・友魚(ともな)役には俳優・ダンサーの森山未來。
と、個性的なメンバーを集めたこの作品。
自分は
『映像研』のアニメが大好きで「キャー!」となり、さらに
松本大洋のファンなので、キャラデザを見たときに
「このひょうたんの人、……楽しい!!!(‘ω’)」
と、大喜びで「見る映画リスト」に登録したものでした。
そして時は過ぎ、映画上映スタート!
作品を観た感想はというと…
惜しい! じつに惜しい作品だと言わざるを得ません。
絵も動きも素晴らしく、いろいろな魅力があり、
好きなところもたくさんある映画なのですが、
「グサッ」っとささる一撃がなく、自分にはかなり惜しい映画でした。
そう思った理由は「アニメなのに、アニメ的なことを捨ててしまったのか?」という疑問から来ており…
はてさて、詳しくは以下より「ネタバレ覚悟で」語りとうございます。
ネタバレを観たくない御仁は、早々に立ち去るがよい…!(急に時代がかってくる)
■ STORY 呪いによって結ばれた「バディ」
これは、呪いによって運命を狂わされた2人の物語。
京都にある猿楽一座に生まれた 主人公・犬王。
謎の呪いを受け、手足の長さも、顔のパーツも
すべてバラバラという異形として生まれる。
そのため、ひょうたんの面をかぶせられ、
犬のように扱われ、育てられていた。
それにもかかわらず、彼は父のように舞うことが好きだった。
一方の友魚(ともな)は、漁師の家に生まれた少年だ。
平家とともに消えた「草薙剣」を、侍の依頼により海中から引き揚げたところ、剣の呪いにより父親が真っ二つ!
自身も視力を失う呪いを受ける。
彼は琵琶法師となり京へと上るさなか、四条の橋で犬王と出会う。
「ここから始まるんだ、おれたちは…!」
■ 二人のセッションシーンはかなり好き!
さて、橋の上で顔を合わせた二人。
「みんな、俺の顔を見たら驚いて去っていくぞ。なぜ逃げん」
「ごめんな、俺は目が見えないんだ」
「背中の琵琶、弾けるのか?」
「もちろん」
そんな、フラットな会話から始まる二人のセッション。
犬王は物干しざおのような腕をグルグルと回し、足を踏みならし、逆立ちをし、「人ならざる形」をしたものが、体全体で踊る。
このシーンは、とにかく動きが面白く、エモーショナルだ。
一方の琵琶法師・友魚も「町で聞こえた生活のリズム」を曲に取り入れる。
こぎみ良いリズムとともに、なぜかギターっぽいメロディも聞こえてくる。
ここのセッションは「音楽が好き、踊りが好き」という、素直な二人の思いが伝わってきて、とてもいいシーンです。
「こんな映像がこれから続くのだなあ、楽しみだなあ…。」
とワクワクしながら映画を観ていたら、このあと、ちょっと肩透かしを食うことになる。
■ なぜ、異形のままではいけないのか!?
犬王に「呪い」をかけたのは、なんと彼の父だった。
自分の舞いを「究極の美」に近づけるために悪霊と契約し、
息子のすべてを「平家の亡霊たち」にささげたのだ。
犬王の呪いを解く方法は、亡霊たちの「物語」を掘り起こすことしかない
亡霊たちの無念を晴らすたび、異形の体が元に戻っていく。
まさに、どろろスタイル。
平家の「物語」を伝えるのは、相棒の友魚の役目。
犬王に憑いた亡霊たちの「物語」を琵琶の音色に乗せて歌う。
2人は出会った橋の上でライブを開催!
満員御礼のステージを続けていくことで、犬王は徐々に人間の姿を取り戻していく…。
……のが、見ていてとても残念なんだ!
あの、物干しざおのような長い腕でぐるぐると回り、
人間業ではない跳躍で屋根までひとっとび、
時折見えるアゴのラインからのぞく、変な口と牙……。
そんな、アニメでしか味わえないようなダンスシーンが、人の形に近くなるにつれ、どんどんと魅力がスポイルされていく。
ちょっと「普通だな……」となる。
あまつさえ、橋の上からワイヤーロープで飛んで見せる、室町時代にない「すごい仕掛け」で観客の心をつかむ…
って、さっきの屋根までの跳躍はどこ行った!?
その「すごい」ってのはだれ目線? 現在から見たら「普通」だ。
もっと、化け物じみたダンスシーンを、俺は見たいよ!
…というか「呪い」の克服方法って「呪い」を解くことなんだろうか?
あの、異形な手足のまま、街の人々の心をつかみ、
呪いをかけた父でさえ「美しい」と言わせしめるのが、
物語としての克服の方法なんじゃないの!?
しかも相方の琵琶法師は、物語の最後まで目が見えない。
それならいっそ、
何かが欠けたもの同士が、
世界を変えていく物語の方が、心にストンと落ちるのよ。
と、観ていてちょっと思ったんです。
だって、アニメだよ、何やってもいいんだよ。
歴史上の犬王だって、異形のままで居てもいいんじゃないか。
なんか、史実に縛られていないか。
アニメって、そんなに不自由だったっけ?
と思ってしまったのでした。
■ 琵琶だって十分カッコいいよ。
この映画は平家の物語を乗せた「曲」ありきの映画になっていて、物語の半分くらいは「ライブ」で構成されている。
ずっと、ライブのシーンが続くのだ。
そして、ライブは室町時代なのにほぼ「ロックフェス」。
ギターやピアノの曲が鳴り響く。(画面上では琵琶をかき鳴らしてるのだけどね。)
が、ちょっと曲や演出が、なんというか、古い。
クイーンとか、なんかどこかで見たことのある感じなんだ。
『アナ雪』の「レリゴー」くらい破壊力のある曲なら、すべてを吹き飛ばせる…と思うけど、あれを期待するのは奇跡に近いと思う。
実際、歴史ものにロックを混ぜること自体は、過去にもある手法なんだけど、ちょっと引っ掛かるのは
最後の曲以外が味付けが似通っていて、少し間延びしていること。
せっかく琵琶法師なんだから、数曲を増やして、琵琶で押してくれてもよかったんじゃないか。
あと、フェスシーンの画角が単調で、なんかこう…高揚感がない。
そして逆に「古いもの」として物語では扱われてた琵琶。
琵琶法師が大勢集まって演奏するシーンが、一番かっこよかった。
…と言ったら、怒られるかもしれないけど、
古くたって、描き方で十分新しくなると思ったよ。
■ そしてまた「アニメとは」の問いに…。
またたぶん、曲と動画を同時進行で作ったんではないだろうか。
というのも、ライブシーンでは 同じ曲で2番、3番まであるから、
曲中に「同じ動き」のシーンが何度も出てくるのだ。
音に合わせて、プレスコ的に動画を追加できなかったんじゃないかと。
さらに、前に書いたように
・舞台装置を工夫したライブパフォーマンスを行う
・現代風の振り付けや演奏が入ってくる。
ということもあり……これ、アニメでやる意味ってどこにあるんだろう。
舞台で生身の人間がやった方がいいのでは…。
と、ライブ中に思ってしまった。
もし、これをアニメーションでやるなら、人の動きをもっと生々しく、筋肉の動きを見せてくれるとか、汗の飛び散るアップがあるとかじゃないと、アニメでやる意味がない。
ほんと、舞台でやったら盛り上がると思う。
森山未來さんやってくれんかのう。
■ でもやっぱり見てもらいたい
…と、いろいろと書いてきましたが。この映画、ある意味「魅力的」だと思うんです。
実際、ハマる人はハマっている。
「呪い」を扱っていながらも、犬王・友魚ともに常にポジティブで、魅力的なこと。
森山未來さんの演技もばっちり、声も魅力的。(『いだてん』の演技はほんとに好き。あと岸部露伴のドラマで出てきた時もよかった…。)
詳しくは知らなかったのですが、女王蜂のアヴちゃんも、演技ばっちりで後で知ってびっくりです。
映像は一部やはりこだわりぬかれたところもあり、歌う歯の一本一本が見えるくらいの書き込みがあったのは、なんだかすごかった。
個々に見ると、魅力がポツポツあるんですよね。
きっと刺さる人には
綺麗にぶっ刺さると思う。
自分としても「ここは好き、でもここがなぁ」というじれったさもまた魅力なのかも…と感じてしまう、そんな映画。
「気になる」と思って観に行った方、感想を共有したいです。
そして、書籍 『劇場アニメーション「犬王」誕生の巻』 が先日発売されたらしいので、こちらも見てみたいと思っています。(ハマっている?)
以上、超!映画反省会でした。
次回もよろしくね。
『犬王』公式サイト 2021年製作/97分/G/日本 監督:湯浅政明/原作:古川日出男/脚本:野木亜紀子 キャラクター原案:松本大洋 CAST:犬王:アヴちゃん、友魚:森山未來 ほか
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