旅をするならひとり旅! こんにちは、レプラコーンWakaです。
今回のひねくれ映画レビューは『ノマドランド』。
先日アカデミー賞3部門を受賞した、話題の映画ですね。
『ノマドランド』 <おすすめ度> アメリカ荒野度★★★★★ 旅情喚起度 ★★★★★
NOMAD(ノマド)とは、テレワーク的なノマドとか、居場所を転々とするアドレスホッパーとか、そういう意味が 「日本では」主なのですが、
この映画のノマドは、そんな「甘っちょろい」ものじゃあございません!
むしろ原語の「遊牧民」の意味に近いです!
住居を持たず、車で移動し、その場その場で仕事を得ながら旅をする生き方。世間では、はぐれ者やらホームレスと呼ばれてしまうのですが…
そんな「ノマド生活」を始める、主人公の女性・ファーン。
夫を失い、家を失った彼女がどこへ行き、何を見つけるのか。
それがこの映画の大まかなストーリーです。
ハンパない荒野が広がるアメリカ。公式サイトより
映画の冒頭は、 ひとり車を走らせ、新たな仕事を探し、荒野でおしっこをする…そんなシーンから始まります。
「このノマドはガチだ!」
この荒野! この広い風景だけでノマド生活の過酷さがわかりますよね。
大画面でぜひ見てほしい!
とても魅力的な主人公・ファーン
主人公のファーンを演じるのは『スリービルボード』でも主役を演じた フランシス・マクドーマンド。わたくしWakaは、彼女の目元の強さと芯のある感じが、なんだか好きなんです。
マクドーマンドさん。公式サイトより
今回の彼女は、芯のある感じがありつつも、その奥に潜む不安や孤独、それを目の演技で表現しているのが本当に見事。
夫と死別し、一緒に暮らしていた町も、工場がなくなることで閉鎖。
住所がなくなり、思い出の地を去らねばならない。
大切な宝物は、子供の時に祖母からもらったお皿と夫の写真。
偶然会った家庭教師の教え子から「先生はホームレスになったの?」という無邪気な問いかけに。
「ホームレスではなくハウスレスよ。」
なんて答える。
ひとことだって「寂しい」なんて言わないのに、それがビシビシ伝わる。それがなんだかすごいし、この女優さん好きだわーと思うところであります。
そして主人公・ファーン自身も、とってもチャーミング。
「人と仲良くなる」ことが得意な彼女は、働き先のAmazon倉庫で出会ったおばあさんと、暇な時間をゲームをして過ごしたり、狭い車で一緒にパーティをして過ごすなんてこともある。
一人でクリスマスを祝う、なんてことにもチャレンジするような彼女のポジティブさは、多くの人を惹きつけます。
その一方で、寒波が襲った夜「教会で寒さをしのいだ方がいい」という人の親切を拒絶したり、
迷い犬をもらってくれたら宿代をまけるよ、という申し出にすっごい後ろ髪をひかれながら犬と別れたり… (かわいい)。
彼女のアクティブな行動力は、新たな別れを経験することへの拒絶…つまりは思い出の重さを紛らわすためのものでもあったのかもしれません。
多くの魅力的な出会いと別れ
そんな、あてもないファーンをみかね、
倉庫で知り合ったおばあさんは、とあるコミューンを紹介してくれます。
ノマド… 車で暮らす人々が集まり、ひと時を楽しむコミューン。ファーンは焚き火を囲んで、彼らがなぜ放浪しているのかを聞き、知ります。
老婆は言います。
「山でたくさんのツバメの巣を見つけたわ。春になると、そこから一斉にひなが飛び立つの。まるで自分が空に飛んでいるようだった。あの景色が見られたから、私はもう十分(生きたわ)。」
とってもカッコいいセリフ!
「この景色を見れたから、もう充分」、なんてこと、本当にあるのかな。
そんなことが言える生き方に、自分はちょっとあこがれるし、なぜだか涙がこぼれそうになる。
ただ単にお金がないだけではない、ひとりで旅をする理由がある。
主人公のファーンも何かを得たのか、この後、アメリカを旅して多くの人と関わっていくようになります。
コミューンの朝のシーンが最高! 公式サイトより
片腕を怪我したおばあさんは、一見、社会的には弱者です。
しかし、実はトレーラー生活に長け、SNSも使いこなし、車の修理もお手のもの。自分の寿命があとわずかと知り、自由な生き方を選択したんです。
なんて強い人なのだろう。
職もなくぶらぶらしているように見えた若者は、農場から出たがらない恋人を待っていた。その思いを手紙で伝えたいのだけど、どう書けばいいのかわからないという。
なんて優しいのだろう。
主人公は、若者に詩を教えます。
「時がたち、物がうつろっても、いまこのときの美しさは変わらない」という詞。
それは、思い出に生きる主人公に、忘れていた何かを思い出させたのかもしれません。
「また会おう」という魔法の言葉
主人公が人に囲まれ、楽しいひとときを終えたあと、必ずひとりになる瞬間があります。
そんな時は必ず、ファーンの心情と呼応するように、少し悲しげなピアノが流れます。
孤独感…というだけではない感覚。これは誰でもが感じる「あるある」なんですが。ファーンには少しつらいのかもしれません。
ずっとここにいたい、だけどそれは叶わないという感覚。
コミューンの宴や、妹の家、
そして、心惹かれた男性の家では「一緒に暮らさないか」と誘われたにも関わらず、用意されたベッドから抜け出し、最後はトレーラーで寝て朝を迎える。片手にはタバコだ(カッコいい)。
ノマドとは、いろんな人と出会い、別れ、またどこかで会う生き方。
ファーンにとって、それはとてもつらいものなのでしょう。
ですが、ノマド・コミューンの代表は、主人公にこう言います
「この生き方が好きなのは、最後のサヨナラが無いからなんだ。いつも”また会おう”と言って別れる。そして実際どこかで会う」
それが、旅のだいご味であり、旅人の生き方なのかもしれません。
「私たちの家(ホーム)は心の中にある」
この映画、旅好きの心に刺さる名言がスッゴク多いです。
「なんで、ひとりになりたいんだろう」とか、「旅に出たくなるんだろう」とか、ぼんやりとした自分に、なにか答えを出してくれるような…そんな気もしてきます。
映像にはアメリカの荒野ばかりが映り、
いわゆる「美しい大自然」なんて1ミリも出てきません。
それでも、やっぱり世界は美しくそこにある。
この風景はぜひ大画面で見てもらいたい、劇場に行ってほしい映画です。
追記
ファーンに心惹かれる男性が、
旅立ちの朝にそっと置いて行った手紙がかっこよかった。
「うちに寄ってくれたら、もっと珍しい石を見せてあげるよ。」
手紙に包まれていたのは、穴の空いた不思議な石。
これはもう、見た瞬間「宝物だ」と思った。
なんてことはない石が、人とのつながりや記憶でとても大切なものになる。
旅ってきっとそんなもの。
『ノマドランド』公式サイト 2020年製作/108分/G/アメリカ 原題:Nomadland 監督:クロエ・ジャオ CAST:ファーン役 フランシス・マクドーマンド ほか
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